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Because, I'm Because, I’m<br>ファッション・スタイリスト 前編
Interview 15 / 地曳いく子さん

Because, I’m
ファッション・スタイリスト 前編

知れば知るほど、服は恋人選びに似ている。

似合わない服と元カレは同じ

寒い冬が終わり、春のあたたかい日差しの心地よさとは逆に、重くのしかかってくるあの気分。そう、冬服の衣替え。クローゼットいっぱいになった服を減らしたいけれど、どれを残してどれを捨てるべきかわからない。そもそも、このその服、自分に似合っている?!そんなファッション迷子の人たちへ。スタイリストの草分け的存在で、『服を買うなら、捨てなさい』の著書が累計40万部を超えるベストセラーとなった、ファッションのプロ・地曳いく子さんに、よりよきアドバイスをいただきます。

Q. 地曳さんはお仕事がらいろいろな世代の方々にお会いしていると思いますが、最近のファッションへの傾向ってどんなことがありますか。

世の中が大きく変わるにつれ、ファッションとの距離感も変わってきていますね。ひと昔前はファッション誌がおしゃれのお手本だったので、「こんなコーデ、一般人には無理!」「モデルだから似合うのよね」と、創られた世界と自分の現実との間に一線を引くことができました。
でも、SNSの時代になりモデルも芸能人も一般人もすべて地続きの状態に。その結果、「素人だからこれでOK」と思えなくなってきたのです。インスタには、ファッションリーダー的な素人さんがいっぱい。フォロワーの多いインスタグラマーは芸能人なみの影響力を持っています。見ている方も「いいね!」をつけたり、自分でも画像をアップしたりするのが、日常のひとコマになっています。当然、コーディネートのバリエーションも増やしたくなりますよね。

もともと日本の女性には、「毎日違う服装をしなければいけない」という意識がどこかにあると思うんです。男性は毎日同じ服装でも何も言われないのに、なぜか女性だけが毎朝鏡の前で苦労を強いられている、まさにバリエーションの呪いです。毎日がんばって違うコーディネートをするなんて、並大抵のことではありません。バリエーションを増やそうと思うあまり、ダサいコーディネートも紛れこんでしまい、返っておしゃれから遠ざかってしまうんです。

服を整理するということは、いまの時代や自分の生活を冷静に見直すこと。地曳さん自身も日々迷っていると話す。

30代、40代の女性たちからは「最近、おしゃれをする気力をなくしてしまいました」といった声も聞くようになりました。
歳を重ねるほどにプロポーションが変わり、おしゃれに対する気持ちもさがってしまう。私自身も昔のようなスタイルは似合わないし、かつてのこう着ればいいというルールも通用しなくなりました。それは、持っていた服が似合わなくなったのではなく、そもそも似合う服が少なくなっているだけなんです。

服を整理することは、もう一回人生を整理することと一緒です。いまの時代や生活をもう一回冷静に考えることなのだと思います。例えば「一生もの」と思って買ったカシミアのセーターとかダウンジャケットでも、重かったり、暑く感じたりしませんか。私も若い頃、仕事でニューヨークへ行ったとき、すごく寒かったので毛皮のコートを買いました。そのときは、「一生ものだから」と奮発したけれど、いまは、毛皮なんて着られない時代。
本当の「一生もの」なんて、お鍋くらいしかないと思っています(笑)。
服に対する考え方も、もっとアップデートしていかなきゃと思うとけっこう整理できます。いまの時代と生活に合っているかどうか、それがジャッジのポイントですね。

Q. いまの時代と自分の等身大の生活に、持っている服が合っているのか。見分ける方法は何かありますか?

朝、身支度をするときに鏡の前でその服を着てみて、ちょっとでもブスに見えたり、太って見えたりしたら、その服とのつきあいはもう終わっています。
服が捨てられない理由にまだ着られるのにもったいないというのがありますね。それを理由に何年もクローゼットの肥やしにする。
たとえば学生時代に親しくしていたボーイフレンドがいたけれど、社会人になって生き方が違って、ほとんどつき合わなくなった人がいるとします。そういう人と、思い出だけでまたつきあったりできますか。
服もそれと似ていて、昔は着ていると気持ちも上がったけれども、いまは自分の生活スタイルが変わったから、着れなくなくなったと考えるべきなのです。

学生時代からファッション業界へ入った地曳さん。ファッションの動向を、その渦のど真ん中で体験してきた人だ。

Q. クローゼットの中に着ない服が増えて困っている人にアドバイスをいただけますか。

特に私の親の時代は、布そのものが貴重だったから、「捨てたら、もったいない」と服をいつまでの取っておくでしょう。それは布ものが捨てられない呪いなんです。それが、世代を超えても引き継がれている気がします。
でも、いまはプチプラとか手ごろな価格でセンスのいい服が容易に手に入るから気軽に買ってしまう、でも捨てないからどんどんたまっていく。クローゼットに入れたまま忘れてしまい、似たような服をまた買ってしまうことも多々あるんです。
だから、衣替えのときはいらない服を処分するチャンスといえます。全部引っ張り出して、全身が映る鏡の前で一枚ずつ着てみましょう。すると、つい去年まで自分を最高にカッコよく見せていてくれたはずの服がまったく似合わなくなっていたりします。そう思った服は二度と着ない。私も23週間前に買ったデニムがびっくりするくらい似合わなくて ()、自分はプロなのに何しているんだろう……と。でも、それを履くと一日中イヤな気持ちになるから、リサイクルなどで処分しようと思っています。

ブランドものが捨てられない人っていますよね。私もいろんなブランドを着倒してきましたが、昔のものを着ると、ただの面白い人になっちゃう。たとえば、シャネルのスーツ、グッチのスーツちょっと寂しいけれど若い子にあげてしまいます。すると憎らしいほどに、80年代、90年代ルックとして素敵に着こなしてくれるんです。
だからうちは彼女たちからビンテージ・ショップと呼ばれている。「もう、なんでも持っていって」と ()

そもそも流行は繰り返すというのは嘘。スパイラルのようにぐるぐる周っているから、同じところには戻らないんですよ。
同じようなシェイプが流行っても、微妙にスタイルが違う。もう似合わないと思ったら、「ありがとう、今まで楽しかったわ」とお礼して、さよならしましょう。

ファッションに留まらずライフスタイルにおいて、地曳さんが感じたことを彼女らしい表現で綴っている著書。ユニークな視点、潔い語り口に世代を超えたファンは多い。

Q. 服の捨て方はかなり納得しましたが、それでも買うことはあると思うんです。選び方についてはどうでしょうか。

私自身、昔、実家にいたときは、6畳の部屋がまるまるクローゼットでしたが、いまでは、スーツケース2個分くらいあったら、そのシーズンは生きていけます。
出番の多い服の数は本当に限られていて、クローゼットにあるのはオール・スタメン。自分に似合う服なら、週に2回でも3回でも着ます。迷ったら前の日と同じワンピースを着てしまうし、数年前に買ったメンズのライダースジャケットやレースのスカートなどもお気に入りなのでヘビロテします。バリエーションを増やすためにイマイチの服を着て、おしゃれ度を下げる必要はないんです。

服って買いたくなる時がありますよね。それがその時の気分を上げてくれる服ならば、買ってもいいと思います。
服を選ぶ際には、自分の「推し」をイメージしてみましょう。もし街を歩いていてその人にばったり会ったとき、その服を着ていて声をかけられるか。見られても恥ずかしくない自分でいられるかということですね。

よくファッション誌で「10年後、20年後も着られる服」というテーマがありますよね。でも、私は「あなた、60歳になってみなさいよ。本当にそれを着るの?」とツッコミたくなります。ファッションに「一生もの」はありません。あるのは「一瞬もの」。一瞬、一瞬が積み重なって一生になる。
女性がいくつになってもなっても新しい服を買い続けるのは、それを着る一瞬が、幸せな気持ちになれるからです。
もちろん、何年先まで着られるかなんてわからない。今は気候にしても予測もつかないじゃないですか。

ファッション業界では、季節を先駆けて展示会が開かれます。そこで欲しい服をいち早くキープすることを、展示会キープと呼んでいるのですが、プロである私たちも先取りキープにハズレが多いと気づいたんです。秋頃の展示会で春先にいいかなと思って長袖アイテムをキープしたところ、春になったとたん暑くなってしまい、その服はシーズン一番の流行りのスタイルだったけれど一回ぐらいしか着られませんでした。
セールのときも注意が必要です。買っていいものはその場で着替えて帰れる服だけ。もしくは明日にでも着て行きたいと思う服。一か月後に着ようなどというのはダメです。

服を選ぶときは、コストパフォーマンスも重要ですが、本当のコスパの良さとは、「何年」着られるかではなく、「何回」着られるかです。
そして大切なのは、買ったら捨てること。こんな風に考えてみてください。いまつきあっているカレとうまくいかないときに、ひょっこり次のいい人が現れたら、もう前のカレとはデートしないでしょう。服もそれと一緒です。新しく買うにはきっと何かの理由がある。いまはそっちの方が良いと思って買ったのだから、もう前の服は着ないですよね。新しいパートナーを選んだのだから、過去には固執しなくていい。そう考えると、きっぱり捨てられますよ。

(前編 了)

写真 sono
インタビュー 歌代幸子
編集 徳間書店

地曳いく子さん

じびき・いくこさん
1959年東京都生まれ。「non-no」をはじめ、「MORE」「SPUR」「Marisol」「eclat」「Oggi」「FRaU 」「クロワッサン」などのファッション誌でスタイリストとして30年以上のキャリアを積む。近年ではファッションアイテムのプロデュース、テレビやトークショーなどでも活躍する。著書に『50歳、おしゃれ元年』『服を買うなら、捨てなさい』『ババア上等!余計なルールの捨て方 大人のおしゃれDo!&Don’t』(槇村さとるさんとの共著)『若見えの呪い』など多数。

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